つるまうかく

群馬在住ヲタクのネット書斎

拝啓、タルヒ

拝啓

いまのあなたに見えている世界が、
どうか光に満ちた温かい世界でありますように。

いまあなたが描く世界が、
どうか色彩に溢れた優しい世界でありますように。

タルヒ

楠木ともり「タルヒ」-Lyric Video- より)

 


楠木ともりさんの楽曲、「タルヒ」は、こんな”台詞”から始まります。
この台詞は、楠木さんが書いたものかどうかはわかりません。
ただ、私は、ご本人が書いたんじゃないかな、と思っています。

だって、この歌は。

 作詞:楠木ともり
 作曲:楠木ともり

なのですから。

 

私は、楠木さんをほとんど断片的にしか知りません。
音楽だと、「温泉むすめ」の大手町梨稟(りりん)とか、ラブライブ!虹ヶ咲の優木せつ菜であったりだとか。
いずれのキャラクターも、比較的ハードなロックを得意とするキャラクターです。
だから、楠木さんに持っていた音楽的なイメージは、一貫して「ロック」でした。
しかし。

「タルヒ」。
Galileo Galileiの「青い栞」を彷彿とさせる清涼感のあるメロディに、突如として混ぜ込まれる、山下達郎を思わせる、甘く、ねっとりとしたハスキーな歌声。
曲も声も質感たっぷりなその歌は、平成初期の時代まで時計の針を戻したかのようです。

この曲は、明るい曲ではありません。
どう転んでも、底抜けに明るくはない。
どちらかと言わずとも、ダウナーでしょう。
暗いところで奥深くまで冷やされた心を、
内側痕つけることを、
『綺麗』、と云う。
そんな感性。


字面で追ってしまえば、そこまで圧力が強いわけではないんです。
そんなに歌詞が長いわけでもない。
熱量はそこまでないはずなんです。
でも。
その言葉が、そこまでの熱を帯びないはずなのに、すっと届く。

寒さを知らなければ
誰かを温められないでしょう
空いた穴に
あなたが向き合った証でしょう

その、飾らないけど最もな歌詞が、届く。

あとは淡々と、

風は強いね

と、その事実を告げるだけ。

 

”タルヒ”という名前は、「足る日」と「垂氷(たるひ)」のダブルミーニングだそうです。
「足る日」は、物事が十分に満ち足りたよい日、吉日のこと。
「垂氷」は、垂れる氷、つまり”つらら”のこと。

この曲の根底には、知足(ちそく)という言葉があるような気がします。
傍から見たら、満ち足りているようには見えなくても。
何かが欠けていたとしても。
その人にとっては、満ち足りている。
足るを、知っている。

この曲に、ぴったりだなと思いました。

暗いはずの歌が、ぼんやりとした温かさを伴って。
聞き終えたとき、心が少し落ち着いて、温かくなっている。
そんな曲です。


これが歌い手から聞き手へのメッセージだと仮定すると、ですが。
メッセージは、実はこの2つしかありません。

「嘘に染まらないでいて」
「明日を見ていて」

 

私達は、どんな小さなものでも、嘘に染まっていないでしょうか。

私達は、明日を見られているでしょうか。

”いまのあなたに見えている世界が
 どうか光に満ちた温かい世界でありますように。”

”いまあなたが描く世界が、
 どうか色彩に溢れた優しい世界でありますように。”

どうか聞いてください。
楠木ともりさんで、「タルヒ」。

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