つるまうかく

群馬在住ヲタクのネット書斎

私たちはトゥモローをうたえるか(冬目景『イエスタデイをうたって』)

今期、アニメも放映されている漫画『イエスタデイをうたって』。
冬目景先生の代表作です。

singyesterday.com

 

物語のテーマは『愛とは何ぞや?』

 

時代は明言されていないものの、バブル崩壊後の右肩上がりではない時代の東京が舞台。
コンビニでアルバイトをしている青年がある女の子と出会い、かつての友人などと複雑な関係を築きながら、主人公も自分の夢を追いながら、少しずつ前に進んでいくという、どことなく乾いているのに感傷的な雰囲気が漂う作品です。

 

美術学校が舞台の「ひだまりスケッチ」や「ハチミツとクローバー」ほどではないですが、作者が美大出身ということもあって、芸術的な要素が随所に詰め込まれているのも一つの特徴。
外向きの、明るさや輝かしさとは逆にあるような群像劇ということで、「げんしけん」などにも雰囲気の近さはあると思います。

 

私は、この作品の主要人物である黒いカラスを釣れている女の子、ハル――野中晴が本当に大好きで。
かつて『ハルみたいな子が眼前に現れるくらいでなければ色恋沙汰にはならない』と言ったほどです。
そして、厄介なことに、今でもその認識は変わってません。

 

トラブルメーカーでデウス=エクス=マキナみたいな不思議な子なんですが、多分私はこういうタイプの子でないと面白おかしく生きていけない。
そして騒ぐだけでなく、ちゃんと考えているし、考えすぎてしまうところもあって。
弱さを明るさでカバーしているからこそ、強くて、弱くて。
だからこそ、関わり続けていたいと思うわけです。

 

イエスタデイをうたって」は、多くのキャラクターが魅力的です。

作品全体が醸し出す独特な雰囲気の魅力もさることながら、この作品が愛された理由の一つは、それぞれのキャラが立っていることも間違いなくあって。

先ほどのハルもそうですが、他の女性キャラ、そして主人公の壁にもなりうる男性キャラも、どこかに組めないし理解ができる、そんな人ばかりなんです。

そして、その全員が、どことなく浮世離れしてはいるけど『全員、現実にいる』。
そのあたりも不思議なリアリティとして読む側に映ります。

 

イエスタデイをうたっては、結末を知っている人と本当に語り合いたいくらいの作品なんですが、ネタバレはしません。
物語の進み方は実に漸近的です。
じわじわとしか進まないし、2歩進んだと思ったら3歩下がっていたりして。
流石に後半は少し歩みが早くなりますが、それでもゆっくり、ゆっくり。

 

ストーリーも、このフォーマットの作品がないわけではありません。
不思議なんですが、この雰囲気を持った作品ってだいたいこういう感じの結末を迎える気がして、その意味では”王道”ともいうべきストーリーだなあと思います。

ただ、ストーリー展開がどうか、というのを分析しても意味がなくて。
この、ある意味王道たりえるストーリーに、冬目景という類稀なセンスが噛み合ったとき、ものすごく重厚なドラマを繰り広げてくれるんです。

 

 

いい作品なので薦めたいという思いもあれば、暗さが影を落とした今の時期に読むべき漫画かというと、うーんという感じ。

自分でもよくわからないのですが、色々考えさせられるし、心に響くものがあるというのは、間違いありません。

昨日をうたうことに疲れたあなたにとって、明日を明るく照らす一筋の光になるかもしれません。


もし、興味がわいたら、是非読んでみてください。