2月23日から27日までCBGKシブゲキ!!にて開催された、クリエイティブユニット【ソフトボイルド】による舞台、「戦国送球〜バトルボールズ〜」の感想を書きます。
出演者の一人、宮沢小春さんにフォーカスした感想は既に書いておりますが、かなり長いので後ほどにでもご覧ください。
~簡単なあらすじ~
有名な戦国武将、真田信之らが雷に撃たれて現代にタイムスリップ。
元の時代に戻る方法は、”ハンドボールで天下統一”…つまり全国制覇することだった!!
果たして、信之らは元の時代に戻ることができるのか!?
まさかの、戦国×ハンドボールというとんでもない舞台でした。
この2つの要素だけでも斬新なのがわかると思いますが、それに加えて、戦国が絡むということは『歴史』の話がどうしても出てきますし、ストーリーからは『SF』、『タイムスリップもの』という要素が読み解けます。
さらに、『舞台でハンドボール』というわりかし意味不明な要素や、『殺陣』もあるという・・・
まるで、新しいものごった煮鍋みたいな舞台でした。
何から語っていいのやら。
①戦国タイムスリップもの
かつての英雄や武将が現代にタイムスリップしてきて活躍する話は、他にもたくさんあると思います。
何かの競技で活躍するというのも、野球を筆頭にありますよね。
その意味では”王道のタイムスリップもの”ではありますし、戦国送球もその本筋からは外れていないのですが…
まさかの引っ張ってきたのが真田信之。
これにはひっくり返ると同時に、個人的にはとてもテンションが上りました。
群馬県民にとって、真田は切っても切り離せないのです。
「真田」と言えば、”日本一の兵”真田幸村を筆頭に、戦国時代で活躍した一族。
NHK大河ドラマでも「真田丸」が放映され、昌幸や信之(信幸)にもスポットが当たりました。
関ヶ原の戦いでは信之が徳川方につき、父の昌幸と弟の信繁(幸村)が豊臣方につくことで、「どちらかが生き残って真田の血を後世まで引き継ぐ」ことを狙った”犬伏の別れ”のエピソードは有名です。
戦といえば真田。
この舞台に組み込むには、歴史を知っていればおあつらえ向きの、とてもよいキャスティングでした。
真田氏ゆかりの地として知られるのは長野県の上田市ですが、真田氏は今の長野と群馬にまたがる地域を領地としており、父・昌幸の居城は上州(今の群馬県)・沼田。
そして、信之の正室として登場した小松姫ですが、こちらも上州の沼田城にいました。
舞台では、我儘で狂気をもった女性として描かれていましたが・・・
歴史上でも強い女性として描かれている女傑です。
なにせ、本多忠勝の娘とも知られる小松姫ですから。
戦国の世でも、夫をキリキリ舞いさせていたのが目に浮かびます。
戦国時代からやってきた武芸達者で戦う知識にも長けたエースが、チームを変えていく。
その設定がストーリーにもバチッとハマり、戦国送球はアツい”戦国”ものとしても完成していきます。
ハンドボール×演劇×殺陣
今回の舞台の演出面での見どころは、間違いなくこの部分。
「ハンドボールって、舞台でどう表現するんだろう・・・」
と思っていた観客は、度肝を抜かれることになります。
普通にボールが舞台上でビュンビュン飛んでる
”テニミュ”として有名なミュージカル・テニスの王子様って、照明でテニスボールを表現してたらしくて、たぶん、実際のボールは使ってないですよね。
テニスはまだメジャーですし、テニプリに関してはもうテニスを超越した何かがあるのでわかりやすいんですけど、ハンドボールとなるとやはりそこまでは知られていない。
そこで、おそらく実際のボールを使ったのかなと思います。
舞台の本筋ではないものの、すごかったのが一度もパスミスがなかったこと。
私だったら絶対ムリだなと思いつつ、鍛錬したんだな…と感心しました。
そして、一番の見せ場であるシュートを放つときの演出がとてもよい。
戦国モードと呼ばれる殺陣で表現する場面はそれでなんとかなるものの、そうでなく実際にボールを持った状態のシーンでも、かなり動きが工夫されていて。
ステージが90度ずつ、回ったように見えるんです。
もちろん、実際には回らないので、演者がそのままの姿勢を維持したまま、90度回る。
あれも派手な部分ではないけれどとても練習が必要なもので。
そして、その演出があるからこそ、見ている側もよりわかりやすくて。
ハンドボールという題材をイメージしやすくするための工夫が、大胆かつ多数組み込まれていたなと思いました。
そして、それをさらに一般化するための殺陣、これもよかった。
ボールを持ちながら一瞬にして刀を構えるなど、この辺りも細かい工夫が光りました。
<物語サイド>アツいスポ根展開
これを一番語りたい。
私自身、ハンドボールはそこまでわかりません。
ただ、この盛り上がりはかつて味わったことがあった気がして。
ある作品の名前を、ポツリと呟きました。
「これ、"スラムダンク"だ・・・」
こう例えるのがいいかどうかわからないんですけど、私の乏しいワードセンスでは、こう例えるしかないんですよ。
スラムダンクなんです。
経験もなしに己の身体能力だけでチームの中心にはいってくるヒーローがいて。
努力できるエリートで、ただ一匹狼になりがちな天才がいて。
情に厚いプレイヤー仲間がいて、親身に応援するマネージャーや家族がいて。
描かれているのは主人公のチームだけじゃなくて。
相手側のチームも、どういう人がいて、どういう特徴で、どういう考えを持って戦っているのかがしっかり描かれていて。
全員に、それぞれの人生がある。
その部分もしっかりと描かれていたところが、とても良かったです。
ネタバレも入るので、物語の展開はあえて書きませんけれども。
終盤、私は泣いた。
王道だけど、スポ根っていいなと思いました。
脚本がとても良かったですし、演者も見事に魂を乗せてくれた。
そう感じました。
その、最大の賛辞の言葉として、「スラムダンクみたいだった」という言葉を送ります。
テーマソング「飛車」
もっともっと書きたいことはたくさんあるのですが、最後にこの話を書いて締めたいと思います。
西本りみさんが歌う、「飛車」です。
この曲がとてもいいんですわ。
この地平線を飛び越えて
見たことのない世界に飲み込まれて
ちっぽけな自分を初めて知った
うつむいた心が逃げ出したくなったそれでも一歩踏み出して
新しい物語はじめよう
背伸びした自分を少しだけ
好きになれた気がするから
舞台を見た後だと、ますます頷ける歌になります。
この戦国送球の主人公って、誰でしょう。
香盤表というか座組というか、キャスト表だと真田信之になります。
ただ、信之はモノローグを言わない。
主役なんですけど、感情移入させるための主役でもあるんですね。
関ケ原の浪木もよかった。
安土桃山に入った小早川秀秋あらため小早川秀春も好きだった。
しかし、私が一番感情移入して観たのは誰だったか。
未来なんですよ。
竹林未来。
西本りみさんが演じた、関ヶ原高校の女子マネージャーです。
弱小のハンドボール部で、それでもハンドボールが好きでみんなを盛り立てようとしていた。
そこに信之が入ってきて、部の雰囲気もガラッと変わって、みんなも成長していく。
その主軸であり、見ている人に近い視点で一喜一憂してくれていたのは、まさに未来だったなと思います。
竹林未来、西本りみさんの好演でした。
正直、書きたいこと半分も書けていませんが、これ以上書いたら誰も読まなくなるので、この辺りまでとします。
続編である「戦国送球〜バトルボールズ〜第二次真田合戦」が4月に上演されます。
続編とはいっても、初見でも全然楽しめる内容になっていると思います。
なにより、あのハンドボールの演出は現地で味わってほしい。
少し気になった方はぜひ、観劇を。
素晴らしい舞台でした。